芭 蕉 の 書 簡

宛先 年月日 内        容
猿雖宛
(推定)
元禄2年
閏正月
去年の秋より、心にかかりておもふ事のみ多ゆへ、却而御無さたに成行候。折々同姓方へ御音信下され候よしにて、申伝へこし候。さてさて御なつかしく候。去秋は越人といふしれもの木曽路を伴ひ、桟のあやうきいのち姨捨のなぐさみがたき所、きぬた・引板の音、ししを追すたか、あはれも見つくして、御事のみ心におもひ出候。としは明ても猶旅の心ちやまず
      元日は田毎の日こそ恋しけれ      ばせを
弥生に至り、待侘候塩竈の桜、松島の朧月、云々
加生
(凡兆)宛
元禄3年
8月18日
度々貴墨に預候へ共、持病あまり気むつかしく御報あたはず候。昨夜よりも出候。名月散々草臥、発句もしかじか案じ申さず候。湖へもえ出申さず候。木曽塚にてふせりながら人々に対面いたし候。各々発句之有候。
      月見する坐に美しき顔もなし
なき同前の仕合にて候。当河原涼の句、其元にて出かかり候を、終に物にならず打捨候を、又取出し候。御覧なさるべく候。
      川風やうす柿着たる夕すずみ
云々
幻住庵の記 元禄3年
4月6日〜
7月23日
前略。すべて、山居といひ、旅寝といひ、さる器ものたくはふべくもなし。木曽の檜笠、越の菅蓑ばかり、枕の上の柱にかけたり。云々
      先づ頼む椎の木も有り夏木立