昔むかしのとんち話
1 | 正月のたき木 | ||
そろそろ年の暮れ、どこの家でもお正月の用意に大忙しじゃ。 今日も、村中そろうて近くの山へたきぎさとりに行ったそうな。 みんながえっちら、おっちら木を集めとるいうのに、田吾作どんだけはじいっと座ったまんま、のんきにキセルをふかしとった。 「あんれ、田吾作は仕事もせんと」 「ぼけーっとしとったらみんなおらたちが持って帰るで、あとで寒い思いをするだべ」 村のもんはせっせとたきぎの束を作りながら、田吾作をけなしとった。おおかた仕事がすんで、さあ、怠けもんにはかまわんと帰ろう、としたその時、田吾作が突然口さ開いて、 「おめえら、椎の木ばっかり集めてどうする気だ。シイは悲しいに通じるだで、縁起が悪いだべ。そったら木さ、正月に使うんなら良くないことが起きるべ。」 そらあえらいこった、とばかりに村のもんは集めた木の束さ捨てて、ほかの木を集めだしたんじゃ。 ところがそれを見とった田吾作。皆の捨てた束さ拾って、担いで帰る用意をしだしたそうな。びっくらこいだ村のもんは、 「よう田吾作。おめえ椎の木は縁起が良くねえと言ったべ。なにするだ!」 田吾作、あわてる風もなく、 「いやあ、あれはおらの思い違えだっただべ。シイは嬉しいに通じるだで、これを正月のたきぎにしたらば、そらあええ事が起こるだ。それからまたシイは楽しいにも通じるだで、これほど縁起のええ木もあるまいて」 あっけにとられる村のもんを尻目に、大きな椎の木の束をかついだ田吾作は、ゆうゆうと先に山を下りて行ったとさ。 |
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2 | 前払い | ||
とんちのうまい熊三。 今日はおかみさんにお使いを頼まれたと。 「ちょいとあんた。町へ行って大がめを買ってきておくれ。今年は梅が豊作だし、たんと梅干を作るから、大きいかめだよ。」 おかみさんから三十文預かってふところに入れた熊三、久しぶりに町へ出かけて行ったと。ぶらぶらしてるうちに、ふと立ち止まったのが居酒屋の前。ぷーんとええ酒の香りがしとるんで、ついふらりと入って15文で酒を飲んでしもうた。 ふところにはあと十五文。それで瀬戸物屋をのぞくと、大きいかめは三十文、小せえかめは十五文じゃった。熊三はしばらく考えとったが、やがてニンマリ笑って店へ入って行き、番頭に、 「この小せえかめをおくれ。ほれ、十五文。」 と小せえかめを買うて帰ってきおった。家に帰るとおかみさん。 「あんた、あれほど大きいかめ、と言ったのにこんなものを買ってきて!こんな小こいかめじゃ役に立たん。それに渡したお金はどうしたね!」 すごいけんまくでどなりたてたと。熊三は、 「まあまあ、そうどなるない。明日になったら大きくなる。だまって見ておいで」 と言うて寝てしもうた。さてあくる日、小せえかめを持って昨日の店に行き、 「ええ、ごめん。昨日買ったかめは小さかったんで、大きいのと換えてもらうよ。」 「はいはい、かしこまりました。それじゃこれを。あと十五文いただきます。」 「えっ、そりゃあおかしい。番頭さん、わしは昨日十五文払ったぞ。それに今十五文のかめを渡したんで、合わせて三十文、ちゃんと計算は合ってるよ。」 と涼しい顔をして大かめを持って帰ったと。 |
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参考文献 |
昔むかしのとんち話 |